昨年度のパンフレットの序文です。今年も思いは一つ、東北の陶芸の興隆を願っています。

手の人が作る小さな器が巻き起こす生活の微風

昔ながらの器がなかなか売れないのは、和の生活が消えてしまったことにあると誰もがいう。確かにめったに膝を折って食事をすることはなくなった。しかし、だからといってそこで長い間積み上げてきた器のかたちや厚みや重さや色彩の感覚を捨てていいということにはならないと思う。伝統の窯を交えて、この展示会を続けて行く意味のひとつは、そこにある。これまでの器に受け継がれてきた蓄積を大事にしつつ、流行に流される器でなくて、現代の生活に根ざした「使える器」を作り続けて行く、その道筋と環境がこの展示会でのお客様との対面、そして作家同士の交流の中から生まれて来てほしいと願っている。
ここに集まっている作家は、いずれも器を作って売ることを生業として、またそうありたい(正直厳しい世の中だから必ずしもそういかない現実がある)と思っている作家たちである。そうした生活の座が成り立たなくなるとき、東北の風土の特徴を帯びた手づくりの「使える器」も消えてしまう。モダニズムの究極的な姿を呈して、都市的環境はますます均一化の方向を加速している現実。器の世界もすべて頭の人のデザインに基づいて設計された工業製品、ユニフォームになってしまうだろう。そのことの寂しさ。
手づくりの小さな器に込められた特徴ある風土の匂いと作り手の思いが、使うものの心にも微風のようなものを巻き起こし、ささやかながら、命にあふれたほんとうに豊かな生活をしていくための入り口になればと心から願っている。

あとがき
「とうほく陶芸展」も今年で5回目。震災復興の意味合いから、急速に変化する時代にどう東北の器とつくる人を守っていくかという難しい課題への糸口を見出すための集いになっています。