栗原市周辺には、戦後東北の個人窯の興隆を先導した村上世一氏(大久保窯)と、かってその指導を仰いだ陶芸家たちがあちこちに窯を構えている。遊佐さんもそうした陶芸家の一人で、東北学院大を卒業後、村上世一氏のもとで修業を積んで、1994年彼の生家である現在の地に窯を開いた。
遊佐さんの窯は国道4号線を北に向かって走り、一迫川を越えたところから左側に入った、留場と呼ばれる古くからの集落の中にある。江戸中期にこの地に移ってきた17代続く農家で、立派な門構えと氏神の社が残っていて、遊佐さんが工房兼展示場としている建物も太い柱の堂々とした古民家であった。
作陶を続けているのは、大雑把なジャンル分けでは村上世一氏も属する民芸風の器に入るのだろうが、伝統的な海鼠釉を中心にしながらも、カラフルな釉掛けはもちろん、刷毛目の大胆な扱いや面取りやしのぎなどかたちの処理に若々しさが感じられる器である。そこには村上氏とは違った自分なりの特徴を出していこうとの意志が感じとれる。大皿や壺など大きな作品にも精力的に取り組んでいるが、ことさら芸術作品を意識することなく、日常生活で気軽に使える器を謙虚に作っていきたいとの気持を持ち続けている。
窯は1立方メートルの容量があるレンガ造りの灯油窯で、大きな壷はもちろん、湯呑茶碗 なら600個ぐらいは焼ける。
年2回窯併設の展示場で工房展を毎年開催しているほか、東京や仙台など遠隔地のギャラリーでの個展も毎年のように開いている。そのために2ヶ月に1回の割合で焚いてるというから精力的な仕事ぶりだ。気力、体力、技術力が充実し、方向性も確かなものになる50代の進展が楽しみな作家の一人である。