「祖父からの隔世遺伝なんでしょうかね」と鈴木さんは笑って言う。祖父鈴木清氏は作並系の伝統を受け継ぐこけし職人で、今は秋保にあるこけし工房&ショップ玩愚庵の創立者であった。しかし、こけしづくりに収まりきれない幅広い趣味人で、益子から泉の別荘に窯職人を呼んで窯を作らせ、仙台圏で最初の陶芸教室を開いた。試行錯誤して白い器を作ったら、平清水焼の「残雪釉」と似てるね、と言われたこともある。それぐらい趣味の域を超えた質の高いものを作っていた。
玩愚庵は、父昭二氏、そして弟の明氏が受け継いだが、次男坊の智さんはお祖父さんが趣味から始めた陶芸家の血を受け継ぐこととなった。山形県高畠の本家が益子の窯元と縁があったことから、益子の窯業指導所に入り修行時代を過ごした。ひたすら轆轤を廻す日々であったという。陶芸家の一人が彼の轆轤回しはすごいよ、と言っていたので今度伺うときには轆轤の技をぜひ拝見できればと思っている。
鈴木さんの最初の窯は、村田の町に近い山中に設けた。後から越してきた陶芸家黒本雅志さんの窯場のちょうど裏手にあたる。現在は遠刈田温泉の中心部からしばらく走った、蔵王権現の入り口、大鳥居の近くの自然林の中に窯と工房を開いている。電気窯と石油窯を用いて、灰釉、黄瀬戸、白磁、瑠璃釉といろいろ試みる中で、人気があったうえに、自分の好みであった織部焼きの副産物である辰砂釉を十八番としている。
色に人一倍関心を持っている鈴木さんは、一般的な木灰だけでなく、林檎、ケヤキ、桜、楢なども灰化して多様な色彩の器を作っている。それら器の抽象表現主義のドロッピングを思わせる表面彩色とスピード感のある轆轤目のタッチを見ていると、プロはだしのブルースギタリストでもある鈴木さんのエモーショナルな音楽的資質とのつながりを考えたくなる。使える器を成り立たせている伝統の技法を理解、修得するだけに終わらず、お世話になってる工芸画廊のオーナーの「新しいものに挑戦して初めて伝統が守れるから勇気をだして仕事をしないと」という言葉を、智さん自身の座右の銘として胸の内に響かせ日夜制作に励んでいる。
最後になったが、奥様の絵付けはロシアや北欧の民俗的なものと日本のこけしの絵付けが融合したような面白さと、ぱっと見で心を惹きつける無邪気な可愛らしさがある。今回は、アクセサリーと「蔵王の森シリーズ」の器を出展する。

元窯3

瑠璃釉の鉢を手に